2007年

8月31日(金)

ブランコを鴉が跨ぎ秋の色

わかる人にわかればいい、という俳句は、
俳句に限らずですが、
誉められた姿勢ではないのかもしれません。
ただ、この句にしたって
初見で笑ってくれる人たちがいます。
それはそれで何よりもうれしいことなんです。

ぶらんこを からすがまたぎ あきのいろ
季語=秋の色


8月30日(木)

物わかりよき顔をして案山子立つ

言葉はナイフです。
関係が近ければ近いほど心臓を深く突き刺します。
家族だから、夫婦だから、恋人だから、親友だから、
師弟だから、友人だから、仲間だから、何を言ってもいい? 
たぶん、それは、幻想ですよ。

ものわかりよき かおをして かかしたつ
季語=案山子



8月29日(水)

法師蝉猫背がひどくなりにけり

「上を向いて歩こう」って、
本当にすてきな曲だなぁと素直に思うのですが、
カラオケなどで実際に歌うと、
なんとなく暗い気分になるのはなんでなのでしょう?

ほうしぜみ ねこぜがひどく なりにけり
季語=法師蝉


8月28日(火)

偶然は幾つもなくて葛の花

隠そうとしても微妙に現れる差異が個性というもので、
人との違いをあえて際立たせることが
個性ではなかったようです。
個性的って言葉にうっかり惑わされたら、
結構な回り道をしてしまいます。
なんとなく、最近、腑に落ちました。

ぐうぜんは いくつもなくて くずのはな
季語=葛の花



8月27日(月)

月光の照らし所を誤りぬ

平等の不平等。
世の中には、
そんなこともあるかもしれませんね。
なんってね。

げっこうの てらしどころを あやまりぬ
季語=月光


8月26日(日)

月光の歯止めとなりぬ蓼の花

育むべきものは想像力。
師からそっくり引き継げるものでも、
親から遺伝するものでもありません。
本来は教えることすらできないもの。
ひとり一人が地道に何とか磨き育てるしかない、
と、もし戻れるのなら
10数年前のぼく自身に一番に教えてあげたい。

げっこうの はどめとなりぬ たでのはな
季語=蓼の花


8月25日(土)

種をまき大根をまき人を摘む

もともと言葉はカタコトで、
論理的なそれは誰かの都合で生まれるもので、
でも進化ではなくて、
シャーマンの呪文のように
不思議な力が宿ることもあるのだから、
洗練されるとともに大切な何かと引き換える? 
矛盾しているからこそ、人間っておもしろい。

たねをまき だいこんをまき ひとをつむ
季語=大根蒔く


8月24日(金)

踊り出す醜美は何処にて交じる

勢いとは、楽しさ。
コンプレックスや憤りや義務だけじゃ、
いつか人は息切れする。
そんなことを最近なんとなく考えています。
深いような浅いような。
ただ、こころから楽しそうに笑う人は、
老若男女問わず、
みんな綺麗だなぁと思うのです。

おどりだす しゅうびはいずこ にてまじる
季語=躍り(=盆踊り)



8月23日(木)

夏の蝶飛ぶモノにみな幸あらん

一生懸命を笑わない。絶対に。

なつのちょう とぶものにみな さちあらん
季語=夏の蝶



8月22日(水)

じゃんけんぽん痛み分けして鳳仙花

長い間、性格の不一致というときの
「不一致」は英語だと思っていました。
耳で聞くと「フイッチ」でしょ。
何の疑問もなく、
スイッチとかピッチとかパンチとかの親戚だと
思ってましたのよ。

じゃんけんぽん いたみわけして ほうせんか
季語=鳳仙花



8月21日(火)

西瓜提灯湿り気を残したる

正直に言いますが、
原句は上五が「湿り気を」でした。
先生の助言で七・五・五と順番を入れ替えたら、
何だか分からないけれど、途端に良くなった。
俳句って、言葉って、不思議です。

すいかぢょうちん しめりけを のこしたる
季語=西瓜提灯


8月20日(月)

黒揚羽四角く飛んでさようなら

こんなに短い文章も、何度も書いては消しています。
その場の勢いというものも
大切なのは分かっているのですが、
ぼくの場合、勢いに任せると数日後にたいてい幻滅します。
もういいや、というまで調整をくわえ、
目をつむって、さよなら!って感じに、更新ボタンを押しています。

くろあげは しかくくとんで さようなら
季語=黒揚羽

読んでくれて、いつもありがとう。


8月19日(日)

浮人形小鼻をわずか膨らませ

俳句なんて地味な素材を、
よくここまでおもしろくできるなー、と、
本当にびっくりしました。
映画「恋は五・七・五! 全国高校生俳句甲子園大会
おすすめです。

うきにんぎょう こばなをわずか ふくらませ
季語=浮人形

前にも書いたけど、
今日は今年の旧暦の七夕さま、で、819でハイクの日(?)。
そして、第10回 全国高校生俳句甲子園大会の決勝の日なんですよ。

みんな、がんばれー!


8月18日(土)

守宮来て舌切り鋏ころがりぬ

年がら年中、口からデマかせをいっている人は、
年がら年中、人にだまされているようにみえます。
見えるだけかもしれませんが、
そう見えちゃうのだからしょうがない。

やもりきて したきりばさみ ころがりぬ
季語=守宮


8月17日(金)

夏痩せもお喋りだけはとめられぬ

本当に、そうみたいです。

なつやせも おしゃべりだけは とめられぬ
季語=夏痩せ


なんだか、もーう記録的猛暑。
気をつけてくださいね。


8月16日(木)

誰でもない人になりたし八月は

以前、なんとか占いで、ぼく、
「世捨て人」って結果だったのよね。
当たらずしも(遠いけれど)
本質的には間違ってなくもないかも、
とは思いましたが、
他人に指摘されると
めちゃくちゃ腹立たしいんだよね、これが。

だれでもない ひとになりたし はちがつは
季語=八月


「我」がぶつかり合わなければ、世界は平和。
そんなこと難しいから、平和は貴重なんですよね。


8月15日(水)

節のない指すべり落ち敗戦日

人を指さす反対の三本の指は自分自身を指さしている、
と、近所のお寺の掲示板にありました。
ふと目について、
思わず、うなってしまいました。

ふしのない ゆびすべりおち はいせんび
季語=敗戦日



8月14日(火)

朝顔や食えぬ顔して猫起きた

猫より犬が好きです。
が、古今東西の恋の名句と猫たちのコラボ本、
逢いたくなっちゃだめ」(写真/板東寛司 選と文/青嶋ひろの)は
おすすめです。
やさしい人柄のうかがえる
青嶋ひろのさんの評論が、なにより素敵です。

あさがおや くえぬかおして ねこおきた
季語=朝顔



8月13日(月)

青竜の睫毛の長さ流れ星

どんなに飽和した世界にも、
必ず未知のものは生まれてくるものなのでしょ?

せいりゅうの まつげのながさ ながれぼし
季語=流れ星



8月12日(日)

生い立ちがこんがらがって星月夜

むずかしいことばかり言っているから、
文芸が文芸でなくなっちゃうんじゃないでしょうか?
えらそうで、すいません。

おいたちが こんがらがって ほしづきよ
季語=星月夜

今年のペルセウス座流星群のピークは、
明日、月曜日の明け方なのだそうです。
明け方か・・・。



8月11日(土)

縦軸も横軸もなし盛夏かな

ぐだぐだした一日。ながーい一日。
活動しない一日。無気力な一日。
楽しくない一日。食べ過ぎてしまう一日。
寝過ぎてしまう一日。寝過ぎて頭の痛い一日。
そんな日があってもいいと思います。

たてじくも よこじくもなし せいかかな
季語=盛夏

暦の上では、もう残暑になるそうです。
実感ありませんが、暦上は秋なんですって。



8月10日(金)

向日葵や小心者の好む花

「客観的」なんて、ただの思い込みでーす。

ひまわりや しょうしんものの このむはな
季語=向日葵


8月9日(木)

百日紅馴染めばいつか目もくれず

事実(事物)と言葉が、
そのままイコールなものにはあまり興味がありません。
考えすぎなのもどうかと思います。
目線を変えれば、
俳句はもっともっとおもしろくなると、思います。
いや、わかりません。

さるすべり なじめばいつか めもくれず
季語=百日紅



8月8日(水)

カタカナが古び八月水を飲む

先生の口から、ときどき戦時中のお話がでます。
なぜか正式な記録には残っていないそうですが、
おそらく本土で初めてであろう空爆を体験したそうです。
戦争のおそろしさを肌身で感じた方の口からは、
決してそれを正当化する言葉などはでません。

かたかなが ふるびはちがつ みずをのむ
季語=八月


8月7日(火)

星今宵苦虫ころりころがして

かつて天才といわれ、くすぶっている人がいます。
そうはなりたくないと、毎日、楽しくもがいています。
これぽっちも天才じゃないからね。

ほしこよい にがむしころり ころがして
季語=星今宵(七夕の夜の星祭りのこと)

今年の旧暦の7月7日は8月19日なんですって。
あら、ロマンチック。なんとなく。



8月6日(月)

寝不足が続きてあした原爆忌

ズレたことを言うようですが、
規模の大小に関わらず、
おおよその事故はヒューマンエラーによるものなのだそうです。
いわゆる人災です。
完璧でないはずの人類が扱ってはいけないものって、
本当はいっぱいあるのだと思います。

ねぶそくが つづきてあした げんばくき
季語=原爆忌


今日は、広島原爆の日です。

マンガだけど、ぜひ、読んでー。
夕凪の街 桜の国」、ものすごい秀作です。


8月5日(日)

凌霄花笑顔の意味を取り違う

すべてを白黒はっきり、1か0かで考えたら、
世の中、つまんなくなりますよ。

のぜんか えがおのいみを とりちがう
季語=凌霄花


8月4日(土)

ごめんねと繰り返しおり白き靴

「ごめんね」と言われると、
それ以上、強く言えない得な人がいます。
きっと人柄なのでしょうね。
そんな人になってみたいような、
みたくないような。

ごめんねと くりかえしおり しろきくつ
季語=白き靴



8月3日(金)

壜詰めの嘆きは真昼ラムネ飲む

働く人の「かしこい」とは、
相手の気持ちをくみ取ることのできる能力を示すのだ、とか。
でも他人の気持ちは、他人のもので本当のところはよく分かりません。
ただ学校の成績のよかった人だけが
「かしこい」わけではない、
ということだけは、よーく分かります。

びんづめの なげきはまひる らむねのむ
季語=ラムネ


「小句集」の仕様を新しくしました。


8月2日(木)

ほうほうと鳴くは弱虫夜光虫

「あなたは弱虫ですか?」と聞かれたら、
2、3秒迷って「はい」と答えると思います。
弱さも強み。ときどきね。

ほうほうと なくはよわむし やこうちゅう
季語=夜光虫



8月1日(水)

夏の月こわれて価値のでる如く

最初から完全なものなどない。たぶんない。
「ある種の完全は、限りない不完全の連続」、なのだとか。
村上春樹さんの小説の一節、たぶん「海辺のカフカ」だった、ような。
すごく好きな言葉です。

なつのつき こわれてかちの でるごとく
季語=夏の月

葉桜に、別に葉桜でなくても、
葉の茂った枝越しに月を透かして見てみてください。
とてもきれいですよ。


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