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東京ムネモシュネの俳句ストック
小句集「鎌倉六十処六十句」 菅野雅生
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「鎌倉六十処六十句」について
この「鎌倉六十処六十句」には、
『谷(やつ)のつどいより』という副題があります。
俳誌「ろんど」で毎月行われている
鎌倉吟行から厳選した60句です。
まさに古都鎌倉への「あいさつ句」集
といえるのではないでしょうか。
実際に訪れたことのない方には、
なかなか実感のわかない部分もあるかもしれません。
俳句作品を鑑賞するうえでのヒントとなればうれしいです。



切通し七口
鎌倉に山太鼓聴く九月かな
かつて鎌倉は三方を山に、一方が海に面した天然の要塞でした。
陸路として山を切り開いた鎌倉に出入りするための道が七つありました。
それを「鎌倉の七口」と呼んでいます。
(かまくらに やまだいこきく くがつかな)


若宮大路
鎌倉警察蝉の脱皮をゆるしをり
若宮大路(わかみやおおじ)は
鎌倉市の目抜き通りのひとつです。
鎌倉の中心でした。
(かまくらけいさつ せみのだっぴを ゆるしおり)


段葛
段かづら海水浴の風通す
段葛は、鶴岡八幡宮の参道の一段高い歩道のことです。
じつはこれ、鎌倉幕府の時代につくられたものなんです。
終点に向かって徐々に道幅を狭くして、
実際よりも長く見せる工夫をしていたそうですよ。
(だんかずら かいすいよくの かぜとおす)


参道口
薄氷を直径として太鼓橋
薄氷の時期は、春先です。
残る寒さにより薄くはった氷、
もしくは解け残った氷のことをいいます。
(うすらいを ちょっけいとして たいこばし)


鶴岡八幡宮
初詣二拝めの腰押されけり
鶴岡八幡宮は日本三大八幡宮のひとつです。
初詣ともなれば、かなりのにぎわいなのでしょうね。
(はつもうで にはいめのこし おされけり)


浄光明寺
浄光を背高く承けし枇杷の花
浄光明寺(じょうこうみょうじ)は、
足利尊氏が挙兵直前にこもったお寺なのだそうです。
ビワはバラ科ですが、花はいたって目立ちません。
(じょうこうを せたかくうけし びわのはな)


薬王院
不受不施の寺の金柑数多生る
不受不施とは、特定の仏教用語です。
日蓮宗以外には、施しも受けず施しもしないということだそうです。
(ふじゅふせの てらのきんかん あまたなる)


海蔵寺
冴え返る水を閼伽とし十六井
閼伽とは、仏前などに供養する水のことです。
海蔵寺の人工窟の中には、16もの井戸が掘られています。
鎌倉時代からのもので、なぜ16なのかは謎なのだとか。
(さえかえる みずをあかとし じゅうろくい)


英勝寺
海芋一帆光をはらむ尼寺のなか
海芋はカラーのこと。
気品のある花で、
白いカラーはウエディングブーケなどにも人気です。
なのになぜか日本名は少しばかり粗野な感じです。
由来は、海の向こうから渡ってきたイモ科の植物だから。
英勝寺は鎌倉唯一の尼寺です。
(かいういっぱん ひかりをはらむ にじのなか)

10
寿福寺
虚子の忌の静かに遠き花御堂
寿福寺(じゅふくじ)には俳人・高浜虚子の墓があります。
虚子の命日は4月8日。
花御堂は、4月8日の灌仏会(かんぶつえ)に
釈迦の誕生像を安置する花で飾られた小さいお堂です。
どちらも季語ですが、どちらも事実。
(きょしのきの しずかにとおき はなみどう)

11
化粧坂
落葉道化粧坂道手引道
化粧坂は鎌倉七切通しのひとつ。
その名の由来のひとつに、
この場所で平家の大将の首実検を行ったからという説があります。
見るも無惨な生首に化粧を施して・・・・。
秋は紅葉の名所です。
(おちばみち けわいざかみち てびきみち)

12
源氏山
春の雷旗立山をちよつと攻め
源氏山は鎌倉の中心に位置しています。
「旗立山」、「白旗山」とも呼ばれ、
現在は観光名所の公園として賑わっています。
(はるのらい はたたてやまを ちょっとせめ)

13
銭洗弁天
悴みの手に招福の銭洗ふ
正式名は、銭洗弁財天宇賀福神社。
銭洗信仰は全国にあるそうですが、鎌倉がもっとも有名でしょう。
(かじかみの てにしょうふくの ぜにあらう)

14
光照寺
車字に隠れクルスや著莪の花
北鎌倉・光照寺の山門には「クルス紋」と呼ばれる
十字架を模した紋が揚げられています。
光照寺は、江戸幕府の弾圧から
隠れキリシタンを庇護していたといわれています。
こんなカタチをしています。
(くるまじに かくれくるすや しゃがのはな)

15
円覚寺
白鹿洞素足の少女覗き居り
「白鹿洞」と呼ばれる小さな洞窟があります。
鹿の一群がこの洞窟から姿をあらわし、
円覚寺(えんがくじ)で行われた説法に、
耳を傾けたとか、いないとか。
(びゃくろくどう すあしのしょうじょ のぞきおり)

16
東慶寺

この門は女性の味方迎春花
鎌倉幕府から始まった長い長い封建時代、
東慶寺は自ら離縁することのできなかった女性のための、
駆け込み寺として存在していました。
(このもんは じょせいのみかた げいしゅんか)

17
浄智寺
捨て臼に実梅が二つ禅問答
鎌倉五山と呼ばれる禅寺のひとつです。
(すてうすに みうめがふたつ ぜんもんどう)

18
明月院
孟宗と矢倉の醸す梅雨の闇
モウソウとは、日本の竹の中でもっとも大きい孟宗竹のこと。
明月院(めいげついん)は、あじさい寺としても有名です。
(もうそうと やぐらのかもす つゆのやみ)

19
建長寺
一山の一画奪ひ朴の花
鎌倉五山第一位の
大本山・巨福山建長興国禅寺は、日本初の禅寺です。
けんちん汁の発祥の地としても知られています。
(いちざんの いっかくうばい ほおのはな)

20
円応寺
すす逃げの漢の何故か閻魔堂
「煤逃げ」は、年末の大掃除(煤払い)から逃げることです。
大掃除が終わった頃を見計らって帰ってくるのでしょうかね。
円応寺(えんのうじ)の本尊には、
仏師運慶作と伝えられる閻魔大王像があります。
周囲には冥界の十王の像が並びます。
別名「新居閻魔堂」。
なかなか見応えがあります。
(すすにげの おとこのなぜか えんまどう)

21
頼朝の墓
鎌倉蝶頼朝墓苑抜け切れず
頼朝は落馬事故により死亡したと伝えられています。
しかし、その死因を疑問視する声も多く、
暗殺説などさまざまな説があるようです。
鎌倉蝶とは、いわゆる方言だそうで、クロアゲハなどのことを指します。
悲劇の鎌倉の、死者の生まれ変わりとも・・・・。
(かまくらちょう よりともぼえん ぬけきれず)

22
荏柄天神
荒梅雨や河童浮き出る絵筆塚
荏柄天神社(えがらてんじん)は日本三天神のひとつです。
「絵筆塚」は、その荏柄天神社にある高さ三メートルほどの筆のオブジェ。
大勢の漫画家さんたちの描いた河童のレリーフで出来ています。
アトム河童やドラえもん河童など、
いろいろな有名キャラクターが発見できますよ。
(あらつゆや かっぱうきでる えふでづか)

23
覚園寺
干支それぞれ神将拝す五月闇
覚園寺(かくおんじ)は、数少ない鎌倉時代の風情を残した古刹です。
本堂には国の重要文化財である薬師如来。
そのまわりに等身大の十二神将がずらりと。
圧巻です。
(えとそれぞれ しんしょうはいす さつきやみ)

24
鎌倉宮
卯の花を眉目と咲かす大やぐら
鎌倉宮(かまくらぐう)は、明治天皇が建立した神社です。
南北朝時代の悲劇や混乱を二度と招かないという願いからだそうです。
拝殿前には、でっかい獅子頭があります。
「やぐら」は鎌倉周辺にある中世のお墓です。
いわゆる上層階級の横穴式の墳墓で、
山腹の岩盤をくり抜いた洞穴です。
(うのはなを びもくとさかす おおやぐら)

25
瑞泉寺
福寿草屈めばかがむほど楽し
瑞泉寺(ずいせんじ)は、
四季折々の花を見ることのできる鎌倉随一の花の寺だそうです。
(ふくじゅそう かがめばかがむほどたのし)

26
杉本寺
底冷えや秘仏三尊透視する
杉本寺は鎌倉最古の寺といわれています。
実際に利用することはできませんが、
苔むした本堂までの階段に長い歴史を感じます。
(そこびえや ひぶつさんぞん とうしする)

27
報国寺
天にゆく他に道なし今年竹
別名、竹寺。
歴史のある「竹の庭」は、一見の価値がありますよ。
おすすめは若竹が一気に成長する真夏。
まさに天に向かって一直線に伸びています。
(てんにゆく ほかにみちなし ことしだけ)

28
浄妙寺
あたたかや撫肩広し禅寺屋根
浄妙寺(じょうみょうじ)の境内は、国指定史跡。
現在は銅板葺ですが、本堂の屋根のなだらかな広がりは、
鎌倉時代から今なお残る風格があります。
(あたたかや なでがたひろし ぜんじやね)

29
明王院
藤つぼみ武士の貌して勇み立つ
明王院(みょうおういん)は、
鎌倉幕府の鬼門除けの祈願所として建立された寺院です。
初の武士社会は、侵略を恐れた社会でもあったわけでして。
(ふじつぼみ ぶしのかおして いさみたつ)

30
光触寺
御仏のあぎと確かむ寒灯下
光触寺(こうそくじ)の本尊である頬焼阿弥陀には、
無実の人をかばい自らの頬に焼印を押したという伝承があります。
「あぎと(顎門)」は、アゴのことです。
(みほとけの あぎとたしかむ かんとうか)

31
朝比奈峠
もののふの彫りし切岸清水酌む
朝比奈峠(朝比奈切通し)は、
鎌倉幕府が軍事的・経済的に重視した場所なのだそうです。
その切通を朝比奈三郎という武士が一夜で切り開いたという伝説があります。
(もののふの ほりしきりぎし しみずくむ)

32
宝戒寺
二株の白き気品や曼珠沙華
別名「萩寺」と呼ばれるように、
秋となると境内はたくさんの白萩に覆われます。
白萩もめずらしいのですが、
さらにめずらしい白い曼珠沙華も見ることができるんですよ。
(ふたかぶの しろききひんや まんじゅしゃげ)

33
腹切やぐら
梅雨晴間高時やぐら蒸れてをり
執政・北条高時の一族が自害したことにより、
事実上、150年にわたる鎌倉幕府が滅亡しました。
その場所が「北条高時腹切りやぐら(東勝寺跡)」として残っています。
(つゆはれま たかときやぐら むれており)

34
滑川
黄櫨の実の鯉に落ちんと滑川
滑川は古都鎌倉を流れる小さな川です。
鎌倉市を通り海へとそそぎます。
(はぜのみの こいにおちんと なめりがわ)

35
大功寺
夏花百花こまつた時のおうめさま
大功寺(だいぎょうじ)の神様は、
「おんめさま」の通称で
古くから鎌倉の人々に親しまれてきたそうです。
安産祈願の神様です。
季語は、夏花、一般的には「げばな」と読みます。
(げかひゃっか こまったときの おうめさま)

36
本覚寺
栴檀の青実のかくれんぼ見つけ
本覚寺(ほんがくじ)には七福神のえびす様をまつる夷堂があります。
まぎらわしいのですが、このセンダンは香木の栴檀ではありません。
古名「おうち」と呼ばれるものです。
実はサクランボ大の楕円形。
(せんだんの あおみのかくれんぼみつけ)

37
妙本寺
のうぜんの前シテと佇つ妙本寺
妙本寺は、「比企の乱」で比企一族が
北条の大軍に滅ぼされた場所なのだそうです。
(のうぜんの まえしてとたつ みょうほんじ)

38
八雲神社(大町)
宝蔵殿神輿を出して良き広さ
鎌倉最古の厄除け神社で、7月の神輿祭りが有名です。
(ほうぞうでん みこしをだして よきひろさ)

39
安養院
大波の寄する嵩なり寺躑躅
おおむらさきツツジの名所として、全国に知られています。
北条政子ゆかりの寺です。
(おおなみの よするかさなり てらつつじ)

40
安国論寺
土光さん日蓮さんと梅の中
安国論寺(あんこくろんじ)は、鎌倉に入った日蓮上人が
草庵を結んだ場所です。
土光さんは、経済界のトップとして
日本経済を牽引した土光敏夫氏のことです。
ここに墓碑があります。
(どこうさん にちれんさんと うめのなか)

41
来迎寺
ミモザ咲く三浦家臣の墓一処
来迎寺(らいこうじ)には、「幽霊の足跡」なるものがあるそうですよ。
(みもざさく みうらかしんの はかいっしょ)

42
五所神社
陽炎のいづこに御座す摩利支天
五所神社(ごしょじんじゃ)は、
長寿長命の神、湯の産土神として親しまれています。
摩利支天はカゲロウの化身の神様。
姿が見えず、切ることもできない。
鎌倉武士があやかりたいと願った護身の神様なのだそうです。
(かげろうの いずこにおわす まりしてん)

43
和賀江嶋
濤のみな頭をそろへ鰆東風
和賀江嶋(わかえじま)は、現存する日本最古の築港です。
(なみのみな かしらをそろえ さわらこち)

44
光明寺
十夜法要白布を結び塔立ちぬ
「十夜法要」とは、浄土宗の念仏行事です。
三日三晩の不眠不休の修行が、
千日の修行に値するといわれているそうです。
(じゅうやほうよう はくふをむすび とうたちぬ)

45
長谷寺
観音の目線は高し冬ざくら
長谷寺の「見晴台」から鎌倉の海と街並みが一望できます。楽しいです。
(かんのんの めせんはたかし ふゆざくら)

46
光則寺
万両の四隅に定まる花マップ
光則寺(こうそくじ)も鎌倉の「花の寺」です。
樹齢200年のカイドウで有名です。
(まんりょうの よすみにさだまる はなまっぷ)

47
長谷の大仏
美男仏膝崩されよ松過ぎぬ
国宝の鎌倉大仏は「長谷の大仏さま」とも呼ばれます。
鎌倉を代表する名所です。
(びなんぶつ ひざくずされよ まつすぎぬ)

48
成就院
海を見る犬のうしろの梅雨の音
成就院(じょうじゅいん)は、明月院にならぶアジサイ寺として有名です。
(うみをみる いぬのうしろの つゆのおと)

49
御霊神社
椨大樹万緑ささふ力瘤
御霊神社(ごりょうじんじゃ)には、
樹齢350余年のタブの大樹があります。
(たぶだいじゅ ばんりょくささう ちからこぶ)

50
極楽寺
極楽寺出で炎天の地獄谷
鎌倉で地獄谷と呼ばれるところは、
昔の埋葬地だとか処刑場だったとか、言われています。
(こくらくじいで えんてんの じごくだに)

51
稲村ヶ崎
色変へぬ松は義貞見たといふ
稲村ガ崎(いなむらがさき)は、
新田義貞が鎌倉攻めの際に利用した場所として有名です。
義貞が潮が引くように念じて剣を投げ入れると、
みるみる潮が引いて・・・・、
そんな伝説があるそうです。
(いろかえぬ まつはよしさだ みたという)

52
満福寺
白ズック下ろして海の近づけり
満福寺(まんぷくじ)は、義経と弁慶のゆかりの寺として有名です。
(しろずっく おろしてうみの ちかづけり)

53
小動岬
わだつみの神の留守なり地魚買ふ
小動岬(こゆるぎみさき)と読みます。
直ぐ近くに漁港があります。
(わだつみの かみのるすなり じうおかう)

54
龍口寺
山茶花の対が御門の仏舎利塔
龍口寺(りゅうこうじ)には日蓮上人の不思議な伝説があるそうです。
仏舎利塔とは、釈迦の遺骨が納められているとされる塔のことです。
(さざんかの ついがごもんの ぶっしゃりとう)

55
金沢称名寺
文庫隧道馬蹄空間花明り
称名寺(しょうみょうじ)に隣接する金沢文庫は、
鎌倉中期の北条実時の私設図書館がはじまりだといわれています。
隧道はトンネルのこと。
文庫につながる小さなトンネルは、
なるほど、馬の蹄のような円形をしていたかも。
(ぶんこすいどう ばていくうかん はなあかり)

56
鎌倉湖
天園へ上る半ばの朴の花
鎌倉湖は大船などの田を潤すために造られた人工湖です。
江戸時代に山を切り開いて造られたそうです。
天園は鎌倉の地名です。
鎌倉湖(散在ヶ池)から天園へのハイキングコースがあります。
(てんえんへ のぼるなかばの ほおのはな)

57
田谷の洞窟
密教の縁の訓滴りぬ
田谷の洞窟(たやのどうくつ)は、
密教修行のための人工の洞窟伽藍(がらん)なのだとか。
その長さは約1キロにもおよぶと考えられているそうです。
(みっきょうの えにしのおしえ したたりぬ) 

58
大船フラワーセンター
ゆきもち草春の女神へ供ふるか
めずらしい花です。
苞にくるまれた中心部が雪のように白く、
お餅がふくらんだように見えるので、雪餅草と名が付いたそうです。
(ゆきもちそう はるのめがみへそなうるか)

59
藤沢遊行寺
体脂肪削ぎし裸足の上人像
藤沢遊行寺は時宗の総本山です。
「ときむね」でなくて「じしゅう」。
人の名前ではなくて、
700年ほど前に一遍上人が開いた念仏宗のことです。
(たいしぼう そぎしらそくの しょうにんぞう)

60
江の島
円周の島を外さず春の鳶
鎌倉といえばトビ。
鎌倉の空をくるりくるりと回っています。
江の島の広さが表現されていますよね。
(えんしゅうの しまをはずさず はるのとび)


○下記を参考にさせていただきました。
各寺院、神社の公式ページ
社団法人鎌倉市観光協会 公式サイト
ウィキペディア

(2012年1月6日/記・こうのこうき)


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