雲母  うんも

改題創刊号/大正6年12月(=1917年12月)号
一冊(一部): 拾銭

「雑詠」巻頭句 飯田蛇笏 選

俳号: 晨生  所在地: ――

月代に雲しづかなる榎かな    
書見する書生二人や椎の丘    
荘の今日あり紅葉の中の筧水    
柿ちぎる竿蒼天に動きけり    
障子ぬらす秋の時雨や筆を擱く    
人落として巌聳ゆる紅葉かな    
露空や我れに親しき樹々の相    
蒼穹に堪へざる色の紫苑かな    
北青し椎落つる音晴るる丘    
細雨やんで変る江の面や紅葉山    

俳誌一覧(発刊順)

ホトトギス ( 高浜虚子/明治41年10月 )
層雲 ( 荻原井泉水/明治44年7月 )
雲母 ( 飯田蛇笏/大正6年12月 )
馬酔木 ( 水原秋櫻子/昭和3年7月 )
かつらぎ ( 阿波野青畝/昭和4年1月 )
玉藻 ( 星野立子/昭年5年6月 )
花衣 ( 杉田久女/昭和7年3月 )
寒雷 ( 加藤楸邨/昭年15年10月 )
風花 ( 中村汀女/昭和22年5月 )
芹 ( 高野素十/昭和32年5月 )

よむヒント

選者の飯田蛇笏(いいだ・だこつ)は、天地風物を重んじる格調高い作風で知られています。その蛇笏が主宰する「雲母」は拠点を東京ではなく山梨に置き、地方俳誌として当時の俳壇に大きな影響を与えた稀有な存在でした。孤高の俳人の作り出す俳句は気迫にみち、蛇笏調と呼ばれ今なお多くの人々を魅了します。ゆえに虚子に次ぐ俳壇の巨人とも。山国に生まれ自然に親しんだ蛇笏の魅力は、(現代人にはない)溢れるほどの自然感情なのだといいます。蛇笏の句としては、おそらく
芋の露連山影を正しうす
がもっとも有名です。(ちょっと玄人好みかも)
をりとりてはらりとおもきすすきかな
その美しさや景色、空気感をただ一本のススキの重さから想像させるのだから、すごい一句です。今どきは月見のためのススキも花屋で買いますが、これは昭和6年作の名句です。

「雲母」の前身は愛知県で創刊された「キララ」という俳誌でした。蛇笏が主宰となったときに発行所を山梨に移し、「雲母」と改題しました。その改題創刊号の巻頭句を飾ったのが、晨生です(この俳号、何と読むのでしょうか、ジンセイ?)。

※月代(つきしろ)=【秋の季語】満月や満月に近い月が出るころに、空が白みを帯びたように明るく見えること。
※榎(えのき)=昔は街道の一里塚に植えられたそうです。
※荘(そう、しょう)=鎌倉時代などに荘園だった場所のことでしょうか。
※筧(かけひ)=竹や木材で地上に水を引くための樋もしくは装置
※蒼天(そうてん)、蒼穹(そうきゅう)=青空のこと
※筆を擱く(ふでをおく)=文章を書き終えること。擱筆(かくひつ)。
※聳ゆる(そびえる)
※露空=梅雨空のことでしょうか。(原句の通り)
※紫苑(しおん)=【秋の季語】おもに庭園に植えられる野菊に似た花。
淡い紫色で、丈が高い。
※細雨(さいう)=きりさめのこと。

引用: 「雲母」改題創刊号/雲母発行所(大正6年12月)

矢印

【 飯田蛇笏に学ぶ、名人の視点!】

迷いを見せず、きっぱり言い切ってみせる。

蛇笏の句の特長は、漢語を好んで使うこと、そして幻想主義的なところがあることではないでしょうか。どこか曖昧さを含みつつも、そ知らぬふりでズバリと言い切って見せる。そこが高潔さを感じさせるポイントなのかもしれませんね。

あらためて上記巻頭句を味わってみる

「創刊号の俳句」の参考書籍、おすすめの書籍

※上記巻頭句に関しては、該当資料からの引用として収集・掲載させていただいています。
※旧漢字については、インターネットの特性上、また初心にも読みやすいよう考慮し、常用漢字に変更している場合があります。
※「ゝ」や「ゞ」などの踊り字については、横書き表示ということもあり、読みやすさを優先するため、適切な平仮名に変更させていただいています。